SCAN TECH 2006プログラム


真の姿を観るSEMテクニック
〜失敗・成功何が違う〜


東京大学工学部 武田先端知ビル 武田ホール(東京都文京区)

2006年10月13日(金)10:00〜18:30

      
演題 講演者 所属
  ・イントロダクション 稲里幸子 松下テクノリサーチ
チャージアップ  
  ・チャージアップSEM像の光と影
   −チャージアップの本質を知り、仲良く付き合う術−
池田 晋 名城大学
  ・易帯電試料における帯電防止の傾向と対策 高橋一郎 帝京大学
  ・観察条件によるチャージアップの軽減法 柴田昌照 日本電子
  ・総合討論  
昼食 11:45〜12:45
試料作製法  
  ・美味しさ・SEM・アーティファクト 木村利昭 工業所有権協力センター
  ・低真空SEMによる含水試料の観察 西村雅子 日立ハイテクノロジーズ
  ・生物試料作製の明暗はここがポイント 近藤俊三 日本電子
休憩 14:15〜14:30
  ・偽りの姿を見破るために−高分子材料編− 乙部博英 旭化成
  ・ポリマーを含む複合材料の断面作製技術 長澤忠広 コニカミノルタテクノロジーセンター
  ・こんなものまでSEMでみました 上野理恵 キヤノン
分析  
  ・EDS/WDSコンバイン分析の実際と応用例 森田博文 オックスフォードインスツルメンツ
  ・EBSP −成功と失敗の分かれ道− 鈴木清一 TSLソリューションズ
ポスターセッション&フリートーキング 17:00〜18:30

会場の使用に関しては,東京大学・日本電子産学連携室のご好意によるものです。



講演概要


チャージアップSEM像の光と影
   −チャージアップの本質を知り、仲良く付き合う術−
池田 晋(名城大学・理工学部)
SEM像観察は多種多様な物質のナノサイズオーダの微細構造解析に有力な手段である。 ところが,検鏡対象の大部分の物質はSEMで直接その姿を表示し難い非導電性物質である。 これを試料として,電子線を照射すると,入射−放出電子の不均衡から,試料中に電荷を残存させることになり,チャージアップが起こる。 一般に,軽微なチャージアップ像は見過ごされることが多いが,長時間同一視野の観察を続けると特定部位が光照明しているように明るく観察され,その領域の周辺には影のような暗部が存在する。 本研究の目的は帯電現象の究明であり,解明された結果を帯電回避法に応用すれば,チャージのベールを剥ぎ取った真の姿の観察が可能である。


易帯電試料における帯電防止の傾向と対策
高橋一郎(帝京大学・医学部)
演者らが観察対象としている試料は,1)細胞内外の超微細形態,2)軽元素で構成され,3)繊維性物質に富み,4)周囲は水溶液に浮遊している微細タンパク粒子が豊富である。 しかも観察に際しては,1)の理由でコーティングは可能な限り薄く,2)の理由で極力低い加速電圧,3)4)の理由で周囲の浮遊物を取り除く必要がある。 これまで演者らは,以上の条件を満たし,しかも高解像度観察が可能な試料作製方法と観察条件について検討してきたので,各種試料処理法と帯電傾向および解決法を紹介する。


観察条件によるチャージアップの軽減法
柴田昌照(日本電子)
非導電性試料の観察では,いかにチャージアップによる異常コントラストを抑え,試料表面の構造を捉えるかが重要になる。 チャージアップを抑える手段としては,低加速電圧観察,低真空モードによる観察,試料コーティングによるチャージアップの回避などが考えられるが,得られた画像がまだチャージアップの影響を残しているのか,十分に影響を軽減できているのかを判断することが重要である。 ここでは,チャージアップによる異常コントラストがどのように現れるのか,その確認方法や観察条件による軽減法について紹介する。


美味しさ・SEM・アーティファクト
木村利昭(工業所有権協力センター)
食品に限らず,電子顕微鏡を用いて研究する者にとって,つねに気をつけなければないのは,試料作製の各工程で起こりうるアーテファクトの可能性である。 この点は電子顕微鏡測定と機器分析と大いに異なる点である。 言い換えると電子顕微鏡的研究とはいかにアーテファクトを発生させずに仕事をするかというのがテーマでもある。 研究者はつねに自分のデータが正しい結果なのか,真の美しい姿を捉えているのか否かを真摯に自問自答しながら研究しなければならない。 講演では食品を例にとり試料作製の各段階で起こりうるアーテファクトについて考察してみたい。


低真空SEMによる含水試料の観察
西村雅子(日立ハイテクノロジーズ)
クールステ−ジを装着した低真空SEMでは,像観察中のチャージアップ現象,水分蒸発,電子線損傷などを軽減できることから,従来の前処理(固定・脱水・乾燥・蒸着など)を省略あるいは簡略化して含水試料を長時間観察することが可能になった。 その結果,従来の試料前処理では観察できなかった新しい知見が得られるようになり,食品をはじめ医学生物分野で広く利用されている。 しかし,試料の含水率や熱伝導率は様々であり,したがって前処理法や観察条件も一様ではない。今回は,より自然な状態で含水試料を観察するために前処理法を含めた低真空観察条件(加速電圧,試料ステージ温度)を検討したので報告する。


生物試料作製の明暗はここがポイント
近藤俊三(日本電子)
生物試料はタンパク質や脂質などからなり多量の水を含む。 また構成元素もOやH,Cなどと軽い。 このため高真空タイプのSEMでは,試料の変形や破壊の防止あるいは二次電子の発生や導電性の附加などを目的に固定や脱水・乾燥・金属コーテングなどの処理がなされる。 これまでに多種多様な試料作製法が考案されているが,今回は遊離細胞や組織の表面観察法,凍結割断法,血管鋳型法,その他を取り上げながら良い試料を得るためのキーポイントを紹介する。


偽りの姿を見破るために−高分子材料編−
乙部博英(旭化成・基盤技術研究所)
高分子材料は加工性が良いなどの特長がある上,近年では耐熱性などの欠点も改良されてきたことから,その用途は広がり,構造評価のニーズは高くなってきている。 しかし,高分子材料のSEM観察では,いくつかの問題点が挙げられる。 1.絶縁物であることから,像障害(チャージアップ)を抑制する必要がある。 2.電子線損傷が激しい。 3.密度が低いことから試料内での電子の拡散領域が大きく,観察条件の違いによる像質の変化が大きい。 ここでは,これら諸問題の影響による失敗作(偽りの姿)を紹介した上で,各種対策を施して辿り着いた成功作(真の姿)を紹介する。


ポリマーを含む複合材料の断面作製技術
長澤忠広(コニカミノルタテクノロジーセンター)
近年,異種材料,加工技術を複合化して開発された複合材料,または異種材料を組み合わせて作られた工業製品が非常に多くなっている。 このような製品の場合,製造プロセス開発,品質管理の立場からは,異種材料間の接着,接合不良,界面反応,腐食,劣化などによる欠陥 部分を分析し,プロセスにフィードバックすることが重要である。 しかし,複合材料は硬さや切削性などが異なるために良好な断面を作製することができず,界面部分の解析ができないことがある。 本講演では複合材料のうち高分子を含むものについて複数の断面作製法を比較検討し,SEM観察した結果を報告する。


こんなものまでSEMでみました
上野理恵(キヤノン・先端融合研究所)
近年ではSEMの機能が進化,また多様化してきており,超高分解能SEM,環境制御型SEM,低真空SEM,極低加速SEM,低加速STEM,分析SEM,簡易SEMなど多くのSEMが商品化されている。 このことにより今までSEMで観察するには困難とされてきた材料も観察可能となってきた。 今回はこれらのすばらしいSEMがなくても,工夫次第で観察可能となった例(液晶の直接観察等)やその他失敗例等について紹介する。


EDS/WDSコンバイン分析の実際と応用例
森田博文(オックスフォードインスツルメンツ)
短時間で全元素の分析ができるEDS(エネルギー分散型X線分析)とエネルギー分解能が高いWDS(波長分散型X線分析)の特長を組み合わせて効率よく元素分析ができるのがEDS/WDSコンバインシステムである。 元素濃度の分析の定量精度を上げたり、EDSで重なっているピークを分離するなどの特長があるが、実際の分析手順などを紹介し、適用範囲や収集条件を紹介する。 特にWDSで使える大電流に対応するためのEDS検出器や分光結晶の選択などを中心に説明する。


EBSP −成功と失敗の分かれ道−
鈴木清一(TSLソリューションズ)
EBSD法は結晶方位を基に材料組織を観察する手法である。 EBSD法の情報は大半が人為的に加工した2情報である。つまりEBSDパターンを連続的に取込み,その方位を決定し,さらに組織を表すデータとして表現する過程に於いて様々な処理を行っている。 この処理方法の違いにより結果が大きく異なる場合も多々ある。 また,EBSDパターンは試料表面に非常に敏感であり,試料作成の良否も測定結果に大きな影響を及ぼす。 EBSD法ではこれら試料の特性や解析手法を十分に理解した上でデータ解析を行うことが必要となる。 本講演では,EBSD法により試料の組織構造を正しく理解する上で必要な事柄の一端を不適切な例を基に紹介する。




ポスターセッション&フリートーキング
気軽な雰囲気で,講師と直接,あるいは参加者同士の自由なディスカッションの時間をお楽しみ下さい。
ポスター展示およびパソコンを使った簡単なプレゼンテーションも可能です(パソコンはご自身でご準備下さい。 予めご連絡下さい)。