SCAN TECH 2005プログラム


観たいものを見るためのSEMテクニック
〜観察条件の最適化と試料作製法〜


日本女子大学(東京都文京区)

      
演題 講演者 所属
 前処理技術 10:00〜11:30
  ・イントロダクション(前処理がなぜ必要か?歴史と現状) 山田満彦 日立ハイテクマニファクチャ&サービス
  ・コーティング/基礎と応用 中川美音 日立ハイテクノロジーズ
  ・生物試料の前処理(導電染色とコーティング) 許斐麻美 日本女子大学 電子顕微鏡施設
昼食 11:30〜12:30
 ナノ材料の観察手法 12:30〜14:00
  ・基板上のフェリチンナノコアの観察 松川 望 松下電器 先端技術研究所
  ・絶縁性微粒子の観察 山中達雄 電気化学 中央研究所
  ・低加速STEM法によるナノマテリアル評価へのアプローチ 竹内秀一 日立ハイテクノロジーズ
休憩 14:00〜14:20
 疲労を観る 14:20〜15:20
  ・金属材料の破損解析 山本広一 日鐵テクノリサーチ
  ・骨の立体微細形態からその機能を知る 阿部和厚 北海道医療大学
 断面を観る 15:20〜16:50
  ・ブロードイオンビームによる断面作製 柴田昌照
朝比奈俊輔
安原 聡
日本電子
  ・ポリマー材料の断面観察 森谷久雄 帝人 構造解析研究所
  ・生物試料の断面を観る 高橋一郎
高間みちほ
帝京大学 医学部
ミキサー 17:00〜19:00


講演概要


イントロダクション(前処理がなぜ必要か?歴史と現状)
山田満彦(日立ハイテクマニファクチャ&サービス)
SEMが初めて商品化された1960年代後半にはすでにEPMAが普及し,その前処理法として樹脂包埋,機械研磨,コーティングなどが確立されていた。 初期のSEMではそれらを踏襲した手法や簡便な割断法で前処理された材料の観察が主流であったが,1970年前半から生物試料の観察が急速に広まりさまざまな前処理法が開発された。 このときSCAN TECHの前身である「医学・生物学のためのSEMシンポジウム(元鳥取大学教授 田中敬一先生主宰)」の果たした役割は大きく,臨界点乾燥法はじめ多くの革新的な手法の開発記録が残されている。 一方,材料や加工製品の観察でも化学/物理エッチング法,FIB法などが実用化され,今日に至っている。 イントロダクションではこれらをレビューしながら整理し,本会おける研究発表の理解を深める一助としたい。


コーティング/基礎と応用
中川美音(日立ハイテクノロジーズ)
SEM観察に際して,試料表面への金属コーティングの要否,コーティング装置,方法,条件などの選択は,「どのような情報をどのようなSEMで得るか?」に依る。 これはコーティング膜の粒状性や保存性,膜厚の制御性,試料ダメージなどがコーティング装置,方法によって異なるからである。 ここでは@タングステンSEMによる一般的な加工製品の観察, AFE-SEMによる先端材料の観察, B超高分解能SEMによるナノマテリアルの観察例を掲げながら, 観察ニーズ毎に必要とされるコーティング膜の特性を把握し,それを得るための手法,条件について検討したので報告する。


生物試料の前処理(導電染色とコーティング)
許斐麻美(日本女子大学 電子顕微鏡施設)
水分を多く含む生物試料をSEMで観察するためには,低真空型SEMを使う場合などを除いて,固定・脱水・乾燥といった前処理が不可欠である。 また,導電性が乏しい生物試料はその表面を直接観察する事は難しく,金属コーティングを施すか,導電染色を行う必要がある。 これらの導電処理は,生物試料の構造を生きた状態に近く捕えたいという願望や観察対象に合わせて幾つかの方法が開発され,利用されている。 今回は特にルテニウム酸を用いた導電染色により無蒸着試料を観察した結果を中心に,低加速電圧SEM観察法における幾つかの例を紹介する。


基板上のフェリチンナノコアの観察
松川 望(松下電器 先端技術研究所)
我々は,生体分子を利用したナノデバイスの加工プロセス"バイオナノプロセス"を,微細化限界が見えつつあるフォトリソグラフィによるプロセスを代替もしくは補完する手法として研究している。 フェリチン蛋白質分子は外径約12nm,内径約7nmの球殻状の形状をしており,内側に種々の無機物コアを形成できる。 この無機物コアを,蛋白質表面の性質を利用して所望の位置に配置しナノデバイス化することを目指しており,様々な基板上でのナノコアを包含した蛋白質の吸着・配置状態の観察には走査型電子顕微鏡による無機物ナノコアの観察が適している。


絶縁性微粒子の観察
山中達雄(電気化学 中央研究所)
近年のトレンドである各種ナノ材料(微粒子)は,様々な産業分野で研究製造されており,SEMはそれらの形態観察に必要不可欠な装置である. しかし,多くの微粒子は絶縁体でありSEM観察においては,チャージアップ現象の回避が重要である. 本報告では蒸着が可能な場合の簡易蒸着法,および蒸着が不可能な場合の無蒸着観察法について各種微粒子の観察事例を紹介する. 特に無蒸着観察技術については,最新のFE-SEMとコンベンショナルSEMを用いた観察事例を紹介する.


低加速STEM法によるナノマテリアル評価へのアプローチ
竹内秀一(日立ハイテクノロジーズ)
近年,カーボンナノチューブや触媒表面の微細構造,メソポーラスシリカの立体構造などナノマテリアルのSEMによる評価ニーズが高まっている。 これらの数十nmから数nmの表面構造や内部構造も含めた組成情報を捉えるには,サブナノメートルオーダの分解能の実現,あるいは二次電子(SE)/反射電子(BSE)信号の最適化,走査透過電子顕微鏡(STEM)像観察などの新しい機能が必要とされている。 今回は,低加速電圧BSE像による触媒介在物の表面/内部分散状況の観察や,STEM像の検出立体角制御によるナノチューブ内包金属の可視化など,SEMをナノ構造評価に応用した例を紹介する。


金属材料の破損解析
山本広一(日鐵テクノリサーチ)
疲労破壊は,ミクロン単位の極めて微小な介在物,疵を起点として亀裂を発生し,伝播し,構造物を破壊に至らしめる。
また,多くの金属部品の損傷解析によって,応力集中として作用する溶接部,接合部への繰返し応力負荷により金属疲労が生じることも解明されており,金属材料の材質改良,接合法および部品設計の改善に反映されている。
本稿では,事故・損傷原因の調査手法および解析事例について紹介する。


骨の立体微細形態からその機能を知る
阿部和厚(北海道医療大学)
骨は,硬い骨基質とその表面にある骨芽細胞と破骨細胞,および骨基質内に埋没している骨細胞からなる骨組織からなる。 骨は成長期から老齢まで生涯を通じてミクロレベルでダイナミックに変化している。 これらの変化は,骨表面における骨形成,骨吸収による。 そのため,骨のミクロレベルの機能は,骨表面に現れる。 ここでは,骨の機能的変化をさぐるための走査電子顕鏡用試料作製法を紹介し,その所見について述べる。 とくに,骨の立体微細形態と骨基質表面の観察,および,骨芽細胞・破骨細胞・骨細胞の観察について述べる。 材料は,動物の正常骨,実験により変化させた骨,人の腫瘍骨などである。


ブロードイオンビームによる断面作製
柴田昌照・朝比奈俊輔・安原 聡(日本電子)
走査電子顕微鏡は様々な分野で用いられており,観察対象となる試料の表面観察はもちろん,断面観察も重要となる場合が多い。 断面試料の作製には試料の性質や目的によって様々なツールが用いられているが,いずれのツールも試料による難しさやノウハウがあり熟練度を必要とする。 また,正確な情報を得るためには,きれいな断面試料を作製することが不可欠である。 我々は,ブロードイオンビームによる断面作製法を用いることで,より簡単に,質の良い断面試料作製を行なっている。 今回は,SEM,EPMA用の断面試料作製法と,TEM,STEM用の薄膜試料作製法を紹介する。


ポリマー材料の断面観察
森谷久雄(帝人 構造解析研究所)
高分子材料へ新たな機能や性能を付与することを目的として,高分子材料を基材として様々な加工処理(薄膜形成,表面加工処理,成型加工など)を施した材料が開発されている。 このような材料の特性と微細構造とは密接な関係があり,電子顕微鏡を用いた形態解析が行われている。材料の内部構造を露出させる手法として,これまで凍結割断法やウルトラミクロトームを用いた断面試料作製法が多く活用されてきたが,近年,Gaイオンビームを用いたFIB(集束イオンビーム)加工観察装置による加工法が注目されている。 本講演では,多孔質構造をもつ材料や繊維表面に薄膜を形成した材料などについて,観察目的に応じて試みた手法の観察事例を紹介する。


生物試料の断面を観る
高橋一郎・高間みちほ(帝京大学 医学部)
我々がヒトを含む生物の細胞あるいは組織をSEMで観察する主たる目的は,細胞を取り巻く外部環境あるいは隣接する細胞同士の情報伝達,細胞内部の三次元微細形態観察である。 このような部位では,非常に繊細な超微細構造が互いに結合したり接近しており,それらの関係を出来うる限り生きている状態に保ちつつ観察するには,対象が柔らかくしかも脆いため試料作製に工夫が必要である。 本講演では,SEMを用いて生物試料の断面観察するための試料作製方法について解説する。




ミキサー
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