SCAN TECH 2003プログラム


明日のサイエンスを支えるSEM/FIB技術

日本女子大学(東京都文京区)

      
演題 講演者 所属
イントロダクション 10:10〜10:20
ライフサイエンスとSEM 10:20〜12:10
  ・SEMの果たした役割と将来への展望
近藤俊三
元・三菱化学生命科学研究所
  ・再生医学とSEM  
    バイオ人工肝臓の開発とSEM
松浦知和
幡場良明
東京慈恵会医科大学
    チタンインプラントの表面改質 早川 徹 日本大学松戸歯学部
  ・香粧品科学とSEM 山下美香 コーセー研究本部
昼食 12:10〜13:10
ナノテクノロジーとSEM 13:10〜17:00
  ・EB/FIB加工のナノテクへの応用
落合幸徳
NEC基礎研究所
  ・SEMによるナノ構造の観察
渡邊俊哉
宮澤宏一
日立サイエンスシステムズ
  ・SEM観察下での微細構造物の組立技術
宮崎英樹
新谷紀雄
物質・材料研究機構
休憩 14:50〜15:10
  ・ナノテクノロジーのための実用SEM技術  
    種々の材料に対する前処理と観察
稲里幸子
藪内康文
松下テクノリサーチ
    表面・断面観察のための最新技法
小野昭成
柴田昌照
久芳聡子
日本電子
    イオンビームによる多様な試料前処理法
多持隆一郎
黒澤浩一
日立サイエンスシステムズ
大西 毅 日立ハイテクノロジーズ
ミキサー 17:00〜19:00


講演概要

SEMの果たした役割と将来への展望
近藤俊三(元三菱化学生命科学研究所)
1965年の英国によるSEMの商品化,ならびに翌年の国産品の登場は、その後の装置開発を急速に進めた。 その成果は,電子源や検出器の開発,さらに装置の安定性などと相まって性能向上は飛躍的なものとなった。 現在,その応用範囲は動物組織や細胞,微生物,植物その他を含む生物領域,金属やセラミックス,高分子,半導体,磁性体,炭素製品あるいは食品などの非生物領域と極めて広い領域に渡る。 ここでは生物試料を中心にSEMがこれまでに果たしてきた役割と将来への期待について述べる。


バイオ人工肝臓の開発とSEM
松浦知和,幡場良明(東京慈恵会医科大学)
バイオ人工肝臓(BAL)は肝不全治療の臨床応用のみでなく,ヒト薬物代謝シミュレーション,肝炎ウイルス感染系,血漿製剤の生産,組織再生・再構築などの研究への応用が可能である。 我々の用いているBALの本体はラジアルフロー型バイオリアクター(RFB)で,円筒形の筒に細胞培養担体を充填し,動物細胞の3次元高密度培養を実現した。 培養液を円筒の周囲から中心に向かってラジアルに還流することで,高密度培養に伴う酸素と栄養素の偏向を中心部への還流速度の増加で補う構造である。 本研究においては,SEMによる立体的微細形態解析が有用である。 1)細胞培養担体の表面構造の観察,2)培養細胞表面の微細形態の観察,3)3次元高密度培養下での細胞再構築の観察,4)細胞ダメージの観察にSEMを利用して,BALの構築と応用を行ったので,その概要を説明する。


チタンインプラントの表面改質
早川 徹(日本大学松戸歯学部)
チタンインプラントの骨適合性改善を目的として,ハイドロキシアパタイト等のリン酸カルシウム(Ca-P)による薄膜コーティングについて検討した。 マグネトロンスパッタリング法などのPVD法によって作製したCa-P薄膜コーティングインプラントと骨との界面のSEM観察の結果から,今回試みた薄膜コーティングは従来から多用されているプラズマスプレー法の欠点を改良できることが分かった。
 また,上皮付着インプラントの開発を目指して,コラーゲンコートチタン上でヒト歯肉由来線維芽細胞を培養したところ,線維芽細胞の初期付着能が向上し,さらにSEM観察からコラーゲンコーティングが細胞の形態に影響を与えることも判明した。


香粧品科学とSEM
山下美香(コーセー 研究本部)
化粧品は様々な粉体,油剤,水等の混合物からなるため,製品開発段階では,個々の成分の特性や混合物として生じる種々の現象,肌へ塗布した場合の有用性などを評価する必要がある。 電子顕微鏡,特にSEMは,試料の微細な3次元構造を視覚的に確認できるため,評価・解析の結果得られた仮説を証明する有効な手段として,説得性のあるデータを製品開発者だけでなく,消費者にも提供している。 今回は,化粧品バルクとしてのエマルションの観察,皮膚の上での化粧品の有用性評価等について,SEMで観察・検証した結果をその手法を含め紹介する。


EB/FIB加工のナノテクへの応用
落合幸徳(NEC基礎研究所)
電子ビームやイオンビームは,現在の装置技術によりビーム径数nmまで絞ることが可能で,微細なパターンの観測のみならず,任意の微細パターンを形成できる技術としてナノテクノロジーの研究の進展に伴いますます重要になっている。 電子やイオンを用いて微細なパターンを形成する方法としては,レジストを露光する,いわゆるリソグラフィがある。 我々は高解像度の有機レジストであるカリックスアレンを開発し8nmの解像度を得ている。 またビーム照射によるエネルギー付与により分子を分解できる性質を利用して,基板表面に吸着したガス分子に電子やイオンビームを照射してナノメートルスケールの立体構造を形成することができる。 本講演では,これらの微細パターン形成技術を中心に紹介する。


SEMによるナノ構造の観察
渡邉俊哉,宮澤宏一(日立サイエンスシステムズ)
 ナノテクノロジー分野における研究開発や品質管理のツールとしてSEMが注目されている。 これは,近年SEMがサブナノメータに迫る分解能を実現したばかりでなく,二次電子/反射電子信号の最適化機能や走査透過電子顕微鏡(STEM)像観察機能などの新しい機能を用いたナノ構造評価法が確立されつつあることによる。 また,超臨界乾燥法を応用した試料前処理技術の改良は,乾燥時に表面張力の影響を受け易い微細レジストパターン評価などへのSEM応用拡大を可能にした。 今回は,これらの新しいSEM機能や前処理法をいくつかのナノ構造評価に応用した例を紹介する。


SEM観察下での微細構造物の組立技術
宮崎英樹,新谷紀雄(物質・材料研究機構)
走査電子顕微鏡に組み込んだマイクロマニピュレータを操作して,微粒子を並べたり積み上げたり,微小な部品を組み立てたりする技術を紹介する。 微小物体は針の先に付着させて持ち運ぶ。 この技術は,フォトニック結晶と呼ばれる新しい光学材料の基礎研究に既に日常的に利用されており,今後,普及していくものと期待される。 講演では,実際のサンプル準備や組立風景をビデオ映像で紹介しつつ,これまでに行なってきた様々な試みや,その中で直面した問題点,残されている課題などについて述べる。


種々の材料に対する前処理と観察
稲里幸子,藪内康文(松下テクノリサーチ)
近年,ナノテクノロジー分野をはじめ,半導体や部品材料などデバイスを評価する上でSEMを中心とした多目的分析は必要不可欠である。
本講演では,破断法(へき開法),研磨法,研磨+ミリング法,FIB法などの前処理法とSEM,FIB-SIM,EBSPによる解析事例について報告する。


表面・断面観察のための最新技法
小野昭成,柴田昌照,久芳聡子(日本電子)
試料の極表面の観察を行うために加速電圧を下げると,解像力が低下する。 これを改善するには,電子銃から対物レンズまでを比較的高いエネルギーの電子として扱い,試料直前で減速するような方法が有効である。 断面の観察を行う場合は高加速電圧を利用することが可能であるが,試料内部への入射電子の拡散が問題になる。 高加速電圧における高解像力を利用するには試料の薄膜化が有効である。
一方,バルク試料の断面作製にはアルゴンイオンビームを用いた切削・研磨を行うことで広い領域の平坦な断面が得られる。
ここでは,これら新しい観察技法・試料作製法について紹介する。


イオンビームによる多様な試料前処理法
多持隆一郎,黒澤浩一(日立サイエンスシステムズ),大西 毅(日立ハイテクノロジーズ)
 従来,Arイオンを用いた研磨法は,TEM観察を目的とした試料の薄膜に利用されていた。 しかしながら,SEMの高分解能化に伴い微細領域の観察ニーズが高まり,特に内部構造の観察においては,従来法の樹脂包埋,研磨では良好な結果を得ることが困難となった。 そこで,SEM観察の前処理にもイオンビームが応用され,研磨面の平坦化やひずみ層の除去を目的とした前処理装置も開発されている。 さらに,FIBの普及により特定個所の断面加工も容易に行うことが可能となり,SEMの前処理装置として利用されている。 今回は,特に界面観察をより高分解能で観察・分析するための前処理法について紹介する。 また,最近材料解析に注目されているEBSPの前処理にもイオンビームを用いたので併せて紹介する。