SCAN TECH 2019

SEM新時代へのプロローグ
〜真の形態を得るための前処理から画像解析まで〜

日時:2019年8月30日(金) 10:00〜18:30
場所:東京都市大学 世田谷キャンパス
(〒158-8557 東京都世田谷区玉堤1-28-1)
 

 

基礎講座

機械学習のための分析技術と試料処理
 

1.EBSD法とは
鈴木 清一( (株)TSLソリューションズ)
 
<概要>
 EBSD法は、結晶方位に基づいた材料のミクロ組織観察法として1990年代初頭に開発されました。現在ではその手法自体の進歩や応用分野の広がりもあり、材料のミクロ組織観察装置としてなくてはならない装置となっています。EBSDパターンは電子線回折に基づくものですが、その発生原理は極めて単純なものです。 本講演では、まずこのEBSDパターンの基本的な特性を説明し、そのEBSDパターンから結晶系や結晶方位を決定する方法について概説します。その後幾つかの応用例を紹介し、材料のミクロ組織観察における基本的な利用方法を理解していただくことを目的とします。また最後に今日のEBSD法の動向や、今後の展開について紹介します。
 
 
2.FIBの基礎とSEM解析に使えるテクニック
完山 正林(サーモフィッシャーサイエンティフィック(株) )
<概要>
 集束イオンビーム(FIB)装置は、昨今のナノテクノロジーに欠かせない重要なツールの1つとなっている。FIBの応用例は半導体ICの修正、SEM観察用断面加工、TEM用試料作製、微細加工など多岐にわたり、それぞれの応用例について現在まで様々な事例が報告されているが、細かいノウハウ的なテクニックに関してまで詳細に述べられることはほとんどない。そこで本発表では、FIBの基礎と基本的な応用例およびSEM解析への応用を念頭にしたテクニックなどについて紹介する。
 
 
3.円環・円孔電極を用いたSEM用収差補正器の開発
川ア 忠寛( (財)ファインセラミックスセンター)
<概要>
 電子顕微鏡の分解能を向上させるためには、レンズの球面収差(Cs)を補正することが必要である。現在TEMやSTEMで実用化されているCs補正器は、多極子等の複数の光学素子を組み合わせたもので、サイズやコストの観点から汎用SEMへの応用は難しかった。そこで我々は、円環および円孔を有する電極間に電圧を印加して発生する電場を用いるシンプル且つコンパクトな簡易型の収差補正器を提案し開発を行っている。講演では、提案技術におけるCs補正の原理や、実機の開発状況について発表する予定である。
 
 
休  憩

SEMに関するQ&A(スライド表示)
 
 

応用講座1

バイオ&ソフトマテリアルの観察技法
 

4.Cryo-in lens-S(T)EMの開発によりわかってきた問題点と新しい応用法
臼倉 治郎(名古屋大学)
<概要>
 30KV透過走査型電子顕微鏡(日立SU9000)を基盤として、透過像と走査像を同時計測できるクライオ電顕を開発した。加速電圧が30KVでも?200nmの厚さの生物試料であれば明瞭な透過像が得られることが判明した。また、STEMでビーム径が0.34nmと細いため、対物レンズの影響を受けないので、CTFの補正をしないで単粒子解析ができるなど大きな利点があることもわかった。一方で、STEMでは焦点合わせが多少難しいこと、高分解能高速取り込みが難しいなどいくつかの問題点も明らかになった。これらは検出器の性能(感度)と深いつながりがあり、早急なブレークスルーを期待したい。
 
 
5.高分解能走査電子顕微鏡を駆使した有機分子集合体の機能開拓
原野 幸治(東京大学)
<概要>
 ナノからマイクロメートル領域のサイズを有する有機分子集合体や有機無機ハイブリッドの開発研究において、その集合体構造のキャラクタリゼーションは重要な課題である。我々は、分子集合体の形状を維持したまま、導電性コーティングを施すこと無く「生の」表面構造を観察可能とする試料調製技術を基盤として、低照射電圧走査電子顕微鏡によるナノレベルでの構造解析を実現した。本講演では、本観察手法および精密分子設計を融合した機能性分子集合体開発アプローチについて紹介する。
 
 
6.SEM-ラマン複合システムによる高分子界面の解析
堀内 伸(産業技術総合研究所)
<概要>
 SEMとラマンの複合化システムにより、特定の表面部位を高い位置分解能でラマン測定を行うことが可能となり、表面形態観察と化学構造分析を同時に行うことが可能となった。本講演では、様々な産業分野で使用されているポリプロピレン(PP)の接着界面とPVDF(ポリフッ化ビニリデン)/PMMA(ポリメチルメタクリレート)の相互拡散界面の解析に本手法を適用した。STEM-EDXによる界面の元素分析とSEM-ラマンによる界面の化学分析を併用することにより、界面での接着メカニズムや高分子の拡散現象をより詳細に理解することが可能になると期待される。
 
 
ポスター発表

SEMに関するすべての話題について
Webより現在募集中
 
 

P1SEMベースDPC法による無染色観察
秋本 由佳(東京工業大学)
<概要>
 微分位相コントラスト(DPC: Differential Phase Contrast)法は、磁性材料を磁場/電場に起因するコントラストとして可視化する走査透過電子顕微鏡(STEM)法の一種として知られている。一般的には透過電子顕微鏡(TEM)をベースにした特殊な装置構成をしており、200kVという高加速電圧で用いられている。ここでは、市販の走査電子顕微鏡(SEM)に付属するSTEM検出器の通常は使用しない機能を用いて、SEMならではの30kVという低加速電圧にてDPC法による無染色有機材料の可視化を試みたので紹介する。
 
 
P2電子顕微鏡によるハムシ科甲虫の卵表面構造の比較観察
山田 昌美(東京農業大学)
<概要>
 ハムシ類はコウチュウ目ハムシ科に属し日本に14亜科約700種存在する。 幼虫及び成虫が植物を加害するため農業・園芸害虫として知られる種も少なくない。 又、利用する植物も様々で、産卵様式が極めて多様であるという生態的特徴を有す る。
電子顕微鏡による昆虫の卵表面構造の観察は日本ではチョウ目、ハエ目に加え、 コウチュウ目カミキリムシ科などで行われているが、これまでハムシ科ではほとんど 行われていなかった。
そこで、今回は電顕観察で得られた表面構造の状態を亜科(グループ)毎に比較する とともに、表面構造の状態が系統や分類体系を反映しているのかを検討したので紹介する。
 
 
P3プロトコル開発を目指したSEMによるナノ粒子粒径分布計測の国内比較試験
熊谷 和博1、譲原 肇2 (AIST1、NBCI2)
<概要>
 ナノ材料の有害性への懸念や安全性管理の必要性から、欧州では粒径分布に基づくナノ材料に対する規制が開始されている。SEMはナノ粒子を可視化し粒径分布を与える計測手法として期待が持たれているが、信頼性の高い計測を実現するには多くの課題が残されている。そこで、我々はSEMによる粒径分布計測プロトコル開発を目的とした国内比較試験を実施した。複数機関によるシリカ、チタニアナノ粒子に対する測定結果を比較検討することで、試料調製から画像解析まで、それぞれの段階でベストプラクティスを見出しプロトコルとしてまとめた。発表では、粒径分布計測における画像解析の影響を中心に報告したい。
 
 
P4ウルトラミクロトームによるSEM試料作製法
石原 あゆみ(ライカマイクロシステムズ(株))
<概要>
 ウルトラミクロトームは生物試料のTEM用超薄切片作製を目的として開発された装置だが、現在では生物・高分子材料中心にTEMのみならず、SEM、AFMなど表面解析装置の前処理にも活用されている。ナイフを用いた切削で薄片や断面を作製するため、加工時の熱やイオンによるアーティファクトがなく短時間で高精度な断面作製が可能な点が特徴である。ウルトラミクロトーム法の簡単な原理から、SEM用の断面作製における実際的なポイント、最近話題のSEMによる連続切片観察などの最新アプリケーションなどを紹介する。
 
 
P5準安定オーステナイト系ステンレス鋼SUS304の加工誘起マルテンサイト変態に及ぼす集合組織変化の影響
松尾 卓、今福 宗行(東京都市大学)
<概要>
 一般的に準安定オーステナイト系ステンレス鋼は、ひずみに誘起されオーステナイト相が一部マルテンサイト相に変態し、局所ひずみが緩和されるため、強度―延性バランスの優れた材料であるとされているが、更なる強度―延性バランスの向上のために、加工誘起マルテンサイト変態量の制御の実現が求められている。そこでSEM/EBSD法を用いて、ひずみを付与したSUS304のPhaseMAPから、実際のミクロな組織同士の関係性を調査し、加工誘起マルテンサイト変態に及ぼす集合組織変化の影響を明らかにしようと試みた。
 また従来材と異なる集合組織変化が生じるようにし、変態量や強度―延性バランスが向上した試料と従来材の比較結果を示す。
 
 
P6微細粒ステンレス鋼の変形・変態集合組織解析
後藤 辰哉、松尾 卓、今福 宗行(東京都市大学)
<概要>
 微細粒ステンレス鋼は、精密加工性に優れた材料であり、結晶粒径が微細であるほど強度が向上し延性が低下するトレードオフの関係にある。また、準安定オーステナイト系ステンレス鋼においては、変形を加えると加工誘起変態により母相にマルテンサイト相が発生し、延性が向上する。そのため、結晶粒微細化と加工誘起変態が巨視的変形機構に影響すると考えられる。
 本研究では、微細粒準安定オーステナイト系ステンレス鋼SUS304, SUS301と微細粒フェライト系ステンレス鋼SUS430、またそれら通常鋼に対して引張変形を加え、SEM/EBSD法により相変態や集合組織の挙動に着目し、微細粒ステンレス鋼の詳細な変形機構の解明を試みた。
 
 
P7新奇な逆結像方式を用いたステレオ画像による表面形態の3次元復元
藤田 直弘、馬場 則男(工学院大学)
<概要>
 試料の3次元計測法として、ステレオ画像計測法がよく知られているが、対応点探索のミスマッチが大きな課題で、複雑な表面形態を精度良く3次元計測することは困難であった。我々は、新たな着想からこの課題を解決する3次元復元法を考案した[1]。本手法では、試料と撮像面を含む3次元空間をコンピュータ内に作り、ステレオ画像をそれぞれの撮像面から試料の方向にその方位に沿って平行移動する、逆結像方法を編み出した。また、独自の画像処理によって、試料表面の正確な3次元形態を復元する。発表では、培養細胞や触媒材料など3次元復元の応用結果を報告する。

 [1] 表面構造の3次元計測・復元方法(特許出願中)
 
 
応用講座2

機械学習によるSEM画像の高付加価値化に向けて
 

7.機械学習の基礎
植松 文徳(日本電子(株))
<概要>
 機械学習とは明示的なルールを与えなくても、データから得られた知識に基づいて予測・識別・実行といったタスクをこなす手法であり、人工知能(AI)を構成する技術として販売予測、顔認証、医療診断、翻訳、自動運転といった幅広い分野に応用されている。この機械学習を走査電子顕微鏡の画像に適用することで、試料分析の高精度化や自動化が期待できる。本講演では機械学習の基礎知識を解説するとともに、学習データの重要性について実例を含めて紹介する。
 
 
8.人工知能技術を用いた電子顕微鏡画像の画像解析基礎と応用
河合 宏紀(エルピクセル(株) )
<概要>
 近年の電子顕微鏡装置の発展によって、高解像度でありながら、大規模なデータや3次元データを取得することが容易になってきた。しかしながら、撮像技術の向上によってデータの取得が可能になったが、その解析技術は十分ではない。電子顕微鏡像は他の顕微鏡に比べて情報量が多い一方で、SN比が高くないことや、特定対象を可視化する技術が少ないことから画像解析は困難であり、画像取得と解析の間にギャップを生んでいる。近年急速に発展している人工知能技術によって、このギャップを埋めることができるのか、最新の知見を元に議論したい。
 
 



<ミキサー>ポスターセッション&フリートーキング

演者に講演内容のポスターを提示していただき、それを見ながら個別に技術交流することができます。また、下記内容のポスター展示も行っておりますので、奮ってご参加下さい。

●当日は169名の参加と6社の出展がありました。ご参加の皆様、ありがとうございました。



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