SCANTECH 2011 プログラム


『SEM 過去から未来へ』

東京都市大学 世田谷キャンパス

2011年9月9日(金)10:00〜19:30

       
 「20周年記念イベント」 講演者 所属
   1.イントロダクション 稲里 幸子 パナソニック
   2.ロードマップ報告 米光 恭子 材料科学技術振興財団
  森谷 久雄 帝人
   3.SEM過去から現在 小倉 一道  日本電子 
   4.SEM現在から未来(装置) 吉田  明 東京都市大学 
   5.SEM現在から未来(応用) 乙部 博英 旭化成 
   6.絶縁物としての医生物試料観察のブレークスルー 高橋 一郎 元 帝京大学
 「様々な試料情報とその観察法」    
   7.ECCI法による疲労転位構造の観察とその応用  兼子 佳久 大阪市立大学 
   8.電子顕微鏡によるグラフェン観察 永瀬 雅夫 徳島大学
   9.SEMで高分子材料を観る 丹羽 博嗣 三菱化学
   10.FIB−SEMを用いた電池材料の三次元構造解析 森川 晃成 日立ハイテクノロジーズ
   11.微生物試料におけるSEM法の変遷 大隅 正子 綜合画像研究支援
  「ユーザー報告」    
  12.文化財・美術工芸材料分野における電子顕微鏡(SEM)観察の紹介 北田 正弘  東京藝術大学
 「 ポスターセッション&フリートーキング」    
  ポスターセッション&フリートーキングの場では、演者に講演内容のポスターを提示していただき、それを見ながら個別に技術交流をすることが

 できます。また、簡単なプレゼンテーションも可能です。奮ってご参加下さい。

講演概要


1.イントロダクション
稲里 幸子(パナソニック)
SEM分科会では2011年度で創立20周年になる。そこで記念行事の一環として、SEM技術の進化を見据え、3〜5年後を視点とした技術ロードマップ(将来展望)を2012年度実現に向けて取組んでいる。近年、極低加速電圧領域での高分解能化や、多種の検出器によって異なる試料情報を取得するなど、著しい進歩を遂げた反面、依然として観察の難しい材料が増えている。またSEMは卓上SEMの誕生など、さらに利用者やそのニーズ・シーズは多種化している。これらを踏まえ、SEM技術も多様化するニーズ・シーズの変遷に追従し、その機能や応用範囲を拡大していく必要がある。そこで、今後、SEMユーザーは何を必要としているのかなどメーカー含めて次世代SEM技術向上に向けて共有化できるよう議論したい。


2.SEM技術 ロードマップ報告
米光 恭子(材料科学技術振興財団)、森谷久雄(帝人)
走査型電子顕微鏡分科会創立20周年の記念行事の一環として、ロードマップ(将来展望)の作成に向け、取り組んでいる。ロードマップ作成により、SEMのユーザー及びメーカーが次世代の技術として求めているものは何かを考察し、技術的な進歩に繋げていくため、顕微鏡学会員の皆様やSCAN TECHにご参加いただいた皆様などに@SEMの使用目的、A観察している材料、B使用しているSEMの満足度、C現在困っていること、改善して欲しいこと、D形態観察や分析に対する課題と期待事項、E試料作製で苦労していることなどについて、アンケート調査のご協力をお願いした。講演では、アンケートの集計結果について報告する。


3.SEM過去から現在
小倉 一道(日本電子)
SEMの歴史は1935年のKnoll(独)の電子ビームスキャナーに始まる。その後もArdenne(独)やZworykin(米)らによるSEM開発のチャレンジは続いたが、バルク状試料の表面観察装置としては完成度が低かった。実用化への飛躍は、1948年から10年間のCambridge大学Oatley研究室の成果による。成果の一つがEverhartとThornleyによる二次電子検出器である。商品としてのSEMの出現は1965年である。その後、高輝度電子銃FEGや低収差レンズが登載されSEMの性能(分解能)が飛躍的に向上し、今日に至っている。SCANTECH2011ではSEMの誕生からその後の成長の過程を紹介する。


4.SEM現在から未来(装置)>
吉田 明(東京都市大)
SEM装置は電子源,レンズ,検出器,真空系,画像表示の要素技術の集合体である。ここ十数年のSEM技術は高性能電子銃の導入、新対物レンズおよび検出器の位置の工夫、画像表示のPC化、真空装置の発展等により、様々な目的に応じたSEMが開発され急速に発展した。 今回は電子銃、対物レンズ、エネルギー検出器(電子、X線)に話題を絞り、近い将来実現できそうな、あるいはユーザーの一人として実現して欲しい、SEM要素技術を紹介する。


5.SEM現在から未来(応用)
乙部 博英(旭化成)
これまで顕微鏡関連技術は半導体、生体組織など各分野において、それぞれの試料に適した評価技術が開発されてきた。しかし、近年では半導体の中にポリマー材料が用いられたり、ポリマーから成る人工臓器の生体への埋設も一般化してきた。このように、課題解決のために複合材料化が進む現在、分野別の評価技術開発は有効であろうか?「試料の真の姿を忠実に捉える」という共通の目的のために、これまで異なる分野で開発されてきた技術を相互が積極的に利用し、さらに将来は、分野を越えた共通の新技術を開発する時期に来ていると感じる。ここでは、異分野の技術を応用利用した事例として、ポリマー材料の構造評価事例を3件紹介する。


6.絶縁物としての医生物試料観察のブレークスルー
高橋 一郎(元 帝京大)
医生物領域におけるSEM観察の歴史は「対象となる微細で繊細な形態をどのように保持」し、「絶縁物である試料をいかに観察可能な状態にするか」という問題を解決するかであった。一部の試料を除いてほとんどの観察対象は水分に囲まれた環境で生活し、その主成分は水素、炭素、窒素、酸素から構成されており、そのままでは二次電子放出は期待できず、また、帯電のため観察することすら不可能であった。このような試料観察に果敢にチャレンジしていった「試料作製(前処理)法」と「観察法」についての技術の変遷について考えてみたい。


7.ECCI法による疲労転位構造の観察その応用
兼子 佳久(大阪市立大)
Electron Channelling Contrast Imaging(ECCI)法とは,走査型電子顕微鏡を用いて結晶表面の近傍に存在する転位を観察する手法である。転位によるわずかな格子面のゆがみによる反射電子強度の変化を捉えることで,転位密度の高い領域を画像化することができる.本講演では,疲労変形を受けた金属材料内で自己組織化した転位構造をECCI法で観察した事例を紹介する.さらに,SEMを用いて広範囲観察ができるという長所を生かした新しい破壊診断技術への応用についても報告する.


8.電子顕微鏡によるグラフェン観察
永瀬 雅夫(徳島 大)
SiC上に熱成長させたエピタキシャルグラフェンの各種の電子顕微鏡による観察結果について述べる。 低エネルギー電子顕微鏡( LEEM)を用いることによりグラフェン層間での電子波干渉により明瞭な層数コントラストを得ることが可能である。SiCは透明材料であり、その上のグラフェン層の膜厚同定は光学的な手法で行うことが出来ないため、ほぼ唯一の層数同定法である。また、通常のSEMでもわずかな二次電子放出効率の差を用いて層数コントラストを得ることが出来る。さらに、断面TEMを用いることにより表面のステップ構造部分でグラフェンが連続的に成長していることが明らかとなった。


9.SEMで高分子材料を観る
丹羽博嗣(三菱化学)
高分子材料を観察する場合の試料作製から観察方法について、以下の観察例を交えながらお話したいと思います。例えば、多くの試料は導電処理して観察しますが、スパッタコートによる損傷(意図しないエッチング)の例は少なくあ りません。そこで電極をスパッタされにくい材質に替えて、意図的にエッチン>グに利用した試料作製の例。 また、導電処理しないとチャージアップすることを利用して、導電性コンパウンド (CBを混ぜたポリマー)の導電領域/非導電領域のコントラストを得る観察方法の例など、通常不具合とされる状況を利用することで目的とする形態を観察した例を紹介いたします。


10.FIB-SEMを用いた電池材料の三次元構造解析
森川 晃成(日立ハイテクノロジーズ)
材料や物質の構造を三次元的に解析することは、機能性材料の特性評価のためにきわめて重要である。集束イオンビーム加工観察装置(FIB)とSEMの複合装置では、FIB加工とSEM観察を連続的に繰り返す機能を用いて連続断面SEM像を取得することが可能であり、これらのSEM像を専用のソフトウェア上で再構築することで、汎用の透過電子顕微鏡では実現不可能な数10μm単位の三次元観察が可能である。本講演では、電池材料の三次元構造解析に応用した結果について紹介する。

11.微生物試料におけるSEM法の変遷
大隅 正子(綜合画像研究支援)
私が走査電子顕微鏡SEMを使い始めたのは、この機器が開発された初期の年代からであった。当時はSEMを用いた動物組織の研究が盛んであったが、SEMはまだ分解能が透過電子顕微鏡(TEM)に比して低かったので、高倍率で撮影しなければならない微生物を観察するには、利用が不向きだった。30kVの加速電圧を用いて、少しでも分解能のよい状態にしても、外形ぐらいしか観察できなかった。SEMを使用して微生物を研究するためには、当時は分解能の向上が必須であった。その後次第にSEMの分解能技術が向上し、低加速電圧領域(LV)が開発され、TEMで行っていた手法をSEMに応用することを可能にした。ここでは、微生物試料におけるSEM法の発達過程としての、凍結置換固定試料の無コーティング観察、LVSEM法、そして加圧凍結・極低温LVSEM法について紹介する。


12.文化財・美術工芸材料分野における電子顕微鏡(SEM)観察の紹介
北田 正弘(東京藝術大)
文化財の特徴は一般研究試料と異なり、どのように材料を用いどのように作製されたか、どんな環境で保持されたか、といった物質・材料に関する情報が非常に乏しいことにある。また、貴重な文化財では、試料が採取できても微量なことが多く、破壊を極力さけることが必要である。したがって、試料の観察は手探りで制限されたものとなる。また、一方では高水準のデーターが望まれ、観察・分析手法の選択と高度化が重要である。本講演では、このような観察手順と観察手段の有効性について、染色品、金属文化財、高松塚古墳試料の観察などを例に紹介する。