SCAN TECH 2004プログラム


明日のサイエンスを支えるSEM技術
― 知っていますか? 試料に応じたいろいろな手法を ―

日本女子大学(東京都文京区)

      
演題 講演者 所属
基礎技術の進歩 10:10〜12:00
  ・生物試料前処理はどのように進化したか?
近藤俊三
日本電子
  ・検出器はどう進化したか?  佐藤 貢 日立ハイテクノロジーズ
中川美音 日立サイエンスシステムズ
  ・SEM観察手法はどう進化したか?
小倉一道
日本電子
  ・画像記憶装置はどう進化したか? 高橋一郎
高間みちほ
帝京大学・医
後藤勝人 サンユー電子
昼食 12:00〜13:00
各種試料の観察(医・生物系) 13:00〜14:20
  ・病原微生物観察の基礎
西山彌生
帝京大学・医真菌研
  ・SEMによる食品におけるカビ侵入菌糸の観察と汚染カビの同定
橋治男
千葉県衛生研究所
  ・口腔内の微生物について,特に歯石と細菌の関係について 三島弘幸 高知学園短期大学・保健科
休憩 14:20〜14:40
各種試料の観察(材料系) 14:40〜16:10
  ・金属材料の観察技術の温故知新 杉山昌章 新日鐡・先端研
黒澤文夫 日鐵テクノリサーチ
  ・写真材料のSEM分析技術 長澤忠広 コニカミノルタテクノロジーセンター
  ・透視SEMによる半導体ナノ構造の観察 永瀬雅夫 NTT物性科学基礎研究所
SEM像の解釈 16:10〜16:50
  ・モンテカルロシミュレーションの使い方 池上 明
小瀬洋一
日立ハイテクノロジーズ
渡邉俊哉
竹内秀一
日立サイエンスシステムズ
  ・SEM画像のシミュレーション 世古千博
小野耕平
富士総合研究所
ミキサー 17:00〜19:00


講演概要

生物試料前処理はどのように進化したか?
近藤俊三(日本電子)
SEMの商品化(1965)はTEMに遅れること26年,TEMの試料作製法は既に確立されていたがSEMにおいては試行錯誤のはじまりであった。 当時,SEMの立体的観察像は大変興味が持たれ,生物系では田中敬一(鳥取大),藤田恒夫(岡山大),徳永純一(九州歯大)らの先生方により活発な取り組みがなされていた。 しかし,満足する試料作成の確立までには至らなかった。 アセトン乾燥法が主流をなしていた1972年秋,鳥取県大山の宿坊に田中先生を発起人とした生物系ならびに理工系の領域を越えた有志が集まり,昼夜にわたる熱い論議が交わされた。 その会の名称を医学生物学のための走査電顕シンポジウムという。 同シンポジウムは以後,回数をかさねるごとに国内外をリードする話題が先行,そして歴史を動かした。 今回は,走査電顕シンポジウムを振り返りながら,今後の可能性を考える。

検出器はどう進化したか?
佐藤 貢(日立ハイテクノロジーズ),中川美音(日立サイエンスシステムズ)
近年、SEMの高性能化はめざましいものがあり、これを支える技術として電子光学技術(高分解能化)と信号検出技術(高コントラスト化)がある。 これらの技術は両輪の関係にあり、互いに関連しながら進歩してきた。 SEMに用いられている二次電子検出器は、Everhartらが1960年に開発したものと基本的には同じであるが、電子光学系の進歩に伴って、SE検出器の配置の変化や電磁界重畳場との組み合わせなど、機能的には大きな進歩が見られる。 本稿では、SEMの高分解能化の歴史を振り返りながら、高分解能化に呼応して進化してきた信号検出技術について報告する。

SEM観察手法はどう進化したか?
小倉一道(日本電子)
「SEM観察手法の進化」は、@SEMの進化(性能の向上や機能向上)によってもたらされたものと、A試料の前処理技術の進化によってもたらされたものと、B市場のニーズ(観察対象となる新しい材料の登場)によってもたらされたものがある。 これら@〜Bを年代順に振り返るとともに、それぞれがどのように関係しあって進化してきたのかを整理してみた。 わずか40年に満たないSEMの歴史の中で、様々な観察手法が見出されてきたことを再認識したとともに、今後も更に新しい観察手法が生まれることを期待する。

画像記憶装置はどう進化したか?
高橋一郎,高間みちほ(帝京大学・医),後藤勝人(サンユー電子)
最近市場に現れた超高分解能走査電子顕微鏡の分解能は加速電圧 1kV で1.0nmが保障されるまでになってきた。 このような画像をできるだけ効率よく保存・再生するためには,画像を取り込む際にできうる限り走査線の数を増やし高精細化する必要がある。 今回,高精細情報を得る目的で「高精細画像取り込み装置」を導入した。 本装置は,従来より使用してきたアウターレンズ型&インナーレンズ型 FE-SEMの両機に併用し,非常に良好な結果を得ることができた。 しかしながら筆者らは当初,SEM画像のデジタル化に消極的であった。 本報告では,本題である「画像記憶装置はどう進化したか」を述べつつ,「高精細画像取り込み装置」導入に至った経緯について述べる。

病原微生物観察の基礎
西山彌生(帝京大学・医真菌研)
私達をとりまく環境中には,肉眼でみることのできない小さな生物,すなわち細菌,原生生物,真菌といったさまざまな種類の微生物が存在している。 一部の微生物は動物や植物に感染して感染症をひきおこす。 微生物の形態をSEMで観察する場合には,対象とする微生物の生物学的特徴を把握し,さらに各々の種類に応じた生理的な状態での細胞形態を観る必要がある。 今回は主として病原微生物(細菌および真菌)をSEM観察する場合の微生物の取扱法,および試料作製・観察法について基礎的な技法を紹介したい。

SEMによる食品におけるカビ侵入菌糸の観察と汚染カビの同定
橋治男(千葉県衛生研究所)
食品や食品原料はしばしばカビの侵襲をうけやすく、そのカビが毒産生カビであればカビ毒汚染を生じることがある。 一方、玄米などの穀粒は、通常、そのまま食されることは少なく精米(粉)や蒸煮の調理過程を経て食される。 したがってカビ毒汚染米においては、粒内における侵入菌糸の分布とカビ毒の分布を知ることは食品衛生学的に重要である。 また、汚染カビの同定では、近接種を微妙な形態的な差異で区別しなければならない場合がある。 そこで、SEM観察による 1)カビ毒汚染玄米粒内部における侵入菌糸の分布 2)アフラトキシン産生菌群における菌種同定 について検討した。

口腔内の微生物について,特に歯石と細菌の関係について
三島弘幸(高知学園短期大学・保健科)
口腔内においての二大疾患は,齲蝕と歯周疾患であると言われている。ともに,歯の表面に付着した歯垢内の細菌が関与しておこるとされている。 齲蝕の主な原因菌(ミュータンスレンサ球菌Streptcoccus mutansなど)のSEM像,象牙質齲蝕での象牙細管内における細菌のSEM像,あるいはプラークの細菌のSEM像などを紹介する。 プラークでは,歯肉縁の上にある縁上プラークと歯肉縁下の縁下プラークがあるが,それらのプラークの細菌のSEM像や位相差顕微鏡像も供覧する。 プラークから歯周疾患へと進行するが,一方プラーク中の細菌に唾液中のカルシウム成分が沈着して石灰化し,歯石となる。歯石の存在はプラークの付着場所を提供し,プラークの量も増えてくる。 歯石における各種の結晶形態のSEM像を紹介し,その成因について考察する。 固定はグルタールアルデヒド固定あるいは,ホルムアルデヒド固定を行っている。 象牙細管内における細菌のSEM像においては,東京歯科大学口腔超微構造学教室の見明康雄先生の援助を受けた。

金属材料の観察技術の温故知新
杉山昌章(新日鐵・先端研),黒澤文夫(日鐵テクノリサーチ)
近年のSEMの分解能の向上と像質の改善は著しく,数万倍の金属組織写真が実用鋼で容易に得られる一方で,必然的に試料作製技術の重要性が増している。 そこで,不安定な析出相の観察や析出相とファセットピットの同時観察などに特徴を持つ化学的な選択エッチング法を再考する。 一方で,析出物の選択エッチング性は,限りなく平滑度を求める電子後方散乱図形(EBSP)法では妨げとなる。 SEMとEBSPは同じ装置に装着されていながら求められる試料表面状態は異なり,両者の特徴を考慮しながら金属材料の観察技術としての試料作製法について検討する。 また金属破断面など凹凸の激しい表面のSEM観察において,新しい立体視観察の試みが始まっており,この技術についても紹介したい。

写真材料のSEM分析技術
長澤忠広(コニカミノルタテクノロジーセンター)
写真,印刷,医療のイメージングシステムは,ハロゲン化銀を感光主体とする写真技術をベースに発展してきた。 しかし,ここ10年ほどの間に,アナログからデジタル,ウエット現像からドライ現像,またハードコピーからディスプレー表示といった要請に応じ,大きく変化しつつある。 これらイメージングシステムの材料開発,プロセス検討において,SEMは利便性もさることながら,試料の微細構造や不良箇所を立体的にとらえ,解析できることから不可欠なものとなっている。 本講演では,コンベンショナルなSEM観察,SEM-EDS分析の他,クライオSEM,CLなど材料,目的に応じた解析事例を紹介する。

透視SEMによる半導体ナノ構造の観察
永瀬雅夫(NTT物性科学基礎研究所)
比較的高い加速電圧(数10kV)のSEMで、酸化膜に被われたSi構造を観察すると、内部のSI構造があたかも"透視"をしたように観察される。 内部構造を反映した酸化膜表面の帯電状態の違いが像となっており、反射電子像に比べるとコントラストが高いことが特徴である。 プローブとして用いているビームの加速電圧が比較的高く材料内部での実効ビーム径が小さいため高い分解能が得られ、通常法では観察が困難な埋込ナノ構造の観察に適している。 本講演では、透視SEMの原理からその応用としてSi単電子デバイス構造の解析結果までを述べる。 講演内容(詳細)

モンテカルロシミュレーションの使い方
池上 明,小瀬洋一(日立ハイテクノロジーズ),渡邉俊哉,竹内秀一(日立サイエンスシステムズ)
近年ナノテクノロジーの発展により,観察の高精度化が進行し,試料表面の凹凸,組成,電位,磁界に起因するコントラストの理解が重要な意味を持ってきている。 コントラストの成因を理解する上で,試料内部での散乱,放出電子の軌道,帯電電位を可視化出来るモンテカルロシミュレーションは,強力な武器になる。 講演では,モンテカルロシミュレーションで得られた試料の厚みとX線励起分布の関係に基づいて,EDS像の解釈を試みる。 更に,シミュレーションと実機データの両側から,Zコントラストの加速度依存性の像解釈を試みる。

SEM画像のシミュレーション
世古千博,小野耕平(富士総合研究所)
近年,半導体分野をはじめとしたナノテクノロジー分野において,電子線を使った測定/評価技術の重要性が増している。 その支援ツールとして,弊社では,実測データの解釈において理論的なアプローチを試みることに始まり,三次元ナノ構造の測定/評価技術のサポートを目標としたシミュレータ「VS-M/EB SEM/STEM-3D」を提供している。 今回は,電子線照射に伴う試料のチャージアップ現象,それに起因した二次電子再配分やSEM画像の歪みなどの解析例を紹介し,今後のシミュレータの展望についても報告する。